裁判にかけられた。
私が、人を2人殺したからだ。
私が殺したのは、百貨店のエレベーターで遭遇した母娘だった。
その親子は私の母に対して信じられないほどの罵声を浴びせていた。
カッとなった私は手に持っていた包丁で、まず娘の方をメッタ刺しにした。
泣き叫ぶ母親も一緒に刺した。
私は自首した。
日本では2人以上の殺人を犯すと死刑になると記憶していた。
裁判で、私はやっぱり死刑だった。
刑務所で死刑の瞬間を待った。
ぼうっと薄汚い天井を眺めながら、死ぬってなんだろうと考えた。
例えば眠る時のような。
夢を見ずに眠る時のような感じなのだろうか。
眠って、一瞬で朝になって目が覚める、その一瞬が永遠に続く感覚なのか。
それならば眠るって死ぬってことなのか。
あの一瞬に人間は少しだけ死んでいるのだろうか……。
暫くすると、「お時間です」と、人間が2人私の牢屋に入ってきて、死刑が執り行われる場所へ連れて行った。
てっきり薬を打たれて安楽死すると思っていた私は、絞首台を見て初めて恐怖を覚えた。