ガラスの潜水艦
生まれた時から太陽は地球に接近していた。
私と親友以外の人類は死んだ。家族も、ほかの友達も。
私と親友は海を目指して歩いていた。
海に着いた2人は人生の最後、定員2名のガラスの箱のような潜水艦で海の中へ沈んでいく。
「海の底には知らん魚が結構いるね」
「深海に住む魚はまだ生きてるんだねぇ……」
私達はきっと数日後には、苦しんで苦しんで苦しんで死ぬだろう。
でも死ぬのは別に怖くない。
「ところでそこの大きなタンクは何?」
親友は、私が持ってきた酸素のタンクを指差して言った。
「酸素」
「はい? 延命してどうすんの」
「だって、こんな上手くいくなんて思ってなかったからさぁ……」
「早々に潜水艦が弾けて海の中に放り出されるかもしれないって?」
「うん」
「潜水艦が弾けたら酸素ボンベ咥える前に水圧で死ぬわ」
親友は呆れていた。
私だってそのくらいわかっていた。
太陽がいよいよ地球に迫ったのは、今から三年前。
その時はまだ、皆熱さに苦しみながらも生きていた。
まさか私達が地球最後の2人になるなんて、誰も予想していなかっただろう。
潜水艦は沈む。
潜水艦は沈んでいく。
マリアナ海溝よりも深く。
「来世はどんなだろう?」
「来世なんてないよ。デスノートで読んだ。死んだらもう永遠に闇の中だって」
最後に私らしくない弱音を吐いた。
死ぬことが急に怖くなったわけではなかったが、明日には私も親友もこの世にいないのだと思うと、不思議な感じだ。