ユメ日記

私が見た夢を綴ります

サヨナラ

好きな人がいた。

その人は私のことがとても好きだった。

遠くに住んでいたけれど、時間があればすぐに会いたがった。

それが満更でもなく、心地良かった。


ある日、いつものラインでのやり取りの中で、ふと言われた。


「俺たちのことが彼女にバレた。彼女が悲しむからもう会わないようにする」


どうやら私は二番手の女だったらしい。

頭が真っ白になった。




私は、あまり人に依存しない。

人との別れ方も知っている。

今までありがとう、楽しかった。

この一言以外に言う必要なんてないのだ。


それでも私はみっともなく膝から崩れ落ちて泣いて、どうにかならないのかと縋った。

余計な言葉を発すれば発するほど、彼の私への関心が薄れていくのが手に取るように分かった。

彼は悪びれる様子もなく、蹲る私を見下ろし、ゴメンネと言った。




後日彼から、私のあげたプレゼントをすべて返却された。

手紙、好きな映画のDVD、アニエス・ベーの腕時計。

その時も私は泣いて、せめて約束していた旅行にだけは行きたいと言うと、彼はそれを渋々承諾してくれた。


彼はあからさまに面倒臭そうな顔をしていた。

私は見ないふりをした。


計画の時点では、何より楽しみにしていた広島旅行。

それが彼との最後のデートになるのだ。





ここで目が覚めました。

起きたら現実で泣いていたのにはビックリしました。

エグい夢よりエグい夢でした。

二度と見たくねーや。

天体観測(※実話)


父親とあまり話したことがなかった。

何を話しても、今まで私に興味を示してくれたことなんてなかったから。


昨晩私は会社の飲み会で酔っ払って、タクシーで家の近くのスーパーまで帰ってきた。

首が痛くなるくらいに上を向くと、満点の星空が輝いていた。


スーパーから家までの距離、およそ百メートル。

私はその間、ずっと上を向きながら歩いた。


深夜2時過ぎに帰宅すると、父親が何故か起きていた。

私は父を無理やり寒空に連れ出し、あの一際光る星は何かと尋ねた。

父親は、星に興味なんて無かっただろうけど、誰でも良いから一緒に星座を眺めたかったのだ。


「あれはシリウス

シリウスは、一番大きな星?」

「一番じゃないけど、今見える星の中で大きいのはベテルギウスとかかな……オリオン座の左肩がべテルギウス」


父親はベテルギウスを指差した。


ベテルギウスは、もうすぐ超新星爆発を起こして無くなるかもしれない星って言われてる。この距離だと白の点にしか見えないけど、近くで見ると赤色に見える。赤色巨星って言って……


驚いた。

仕事熱心で、寡黙で、冷たいと思っていた父親は私の何百倍も天体に詳しかった。


「じゃあ、シリウスベテルギウスよりも小さい星なんだ。あんなに光ってるのに?」

シリウスは、太陽以外で地球上から見える一番明るい星だからな。勿論太陽よりは大きいけど、ベテルギウス程ではない」

「すごーい!詳しいねえ。私も宇宙が好きなんだけどね、全然パパの知識には追いつかないや」


父親は、私を見てふっと笑った。




翌朝、私が起きたのはお昼頃だった。

母親から「パパはもう帰ったよ」と聞かされた。


「パパねぇ、アンタが帰ってくるまで俺は寝ない!ってずっと起きてたんだよ」

「え?何で?」

「心配だからじゃないの?」


母親に、昨夜の出来事を話した。


「パパに似たんだね。パパはずっと昔から宇宙が大好きなんだよ。はい、これパパから。朝早く出掛けてわざわざこれ買ってきたみたい」


母親が私に手渡したのは、科学雑誌ニュートンの大宇宙完全版だった。


いつも一円でも安いお店に行って、必要最低限のものしか買わない。

スタバのコーヒーよりコンビニのコーヒー。

タバコだってシケモクを大切に吸うような人が、二千円も超える本を私にくれたのだ。


私は、こんなことで泣くような女だと母親に思われたくなくて、必死に強がった。


「パパって、私のこと大好きなんだねー」

「宇宙よりもね」


昨夜のたった五分にも満たない天体観測を、私は一生忘れることはないだろう。

減圧

「ああ、ダメだこれ死んじゃうな」


気密室の中で、減圧が下がって行くのを感じながら私はぼんやりと考えた。

身体がパンパンに膨れ上がり、今にも目玉や腸が飛び出しそうだった。

私はこの気密室の中で殺された後、死姦が好きなあのクソデブに売り飛ばされるのだという。

クソデブの気持ち悪い笑みが頭から離れない。


ああ、人生こんなもんか。

好きな人とセックスもしてないのに終わるんだな。

死んでも尚気持ち悪い奴に犯されるなんて、本当についてない。

こんなことになるなら、何かしら行動しとくんだった。


見ると、減圧がマックスまで下がっていた。

それを確認した瞬間、肛門から長い長い腸が飛び出した。

目玉もいつ落ちてしまうかわからない。

私はあまりの痛みに嘔吐し胃の中を空にした。

まだ意識があるのが不思議だった。


減圧実験が終わり、気密室の扉が開いた。

私の目の前にクソデブが立っていた。


「なんだ、死ねてないのか。可哀想にな」


クソデブは私の足元にまわり、飛び出た腸を思いっきり引き抜いた。

魂ごと抜き取られるんじゃないかと思うほどの痛みに、声にならない声をあげた。

なんで死ねなかったんだろう。

クソデブはグッタリした私を乱暴に俵担ぎし、気密室を後にした。

「上がりなさい」

薄暗い拷問室の中で、私を含む男女4人が全裸で狭いステージに上がらされた。


これから選別が行われる。

拷問師のお気に入りに選ばれた者は、1人だけ鞭で打たれ皮膚を剥がされる拷問を受けるのだ。


ピエロのような顔をした拷問師は、私たちの頬を掴んで一人一人顔をじっくりと見る。

私は拷問師の人を選ぶ基準がなんとなくわかっていた。

それは何をされても泣きそうにない、強そうな人だった。

そのため、すでに涙目の私は選ばれないと確信していた。


案の定、私は選ばれなかった。

選ばれたのは筋肉質の若い男だった。


選ばれなかった三人には、拷問を見守るという試練が与えられる。

私を含む三人は椅子にロープで括り付けられた。


今回の拷問で使用される猫鞭は、鞭の一本一本に棘が沢山ついていた。

さらにその鞭は硝酸に浸してある。


手を上に上げた状態で拘束された男は、すでに失禁していた。


拷問師が鞭を振り上げ、男の背中に一発目を放つ。

パチン!と大きな音がして、背中に大きな傷がついた。

その傷へ硝酸が入り込み、みるみる背中の皮膚が焼け爛れる。

男は絶叫した。

間髪入れずに二発目、三発目と鞭が打たれ、その度に皮膚がめくれ上がって血が噴き出した。

十発入れた頃には骨が見え始めたが、なおも男は叫び続けていた。


私はその様子を、ぼーっと見ていた。

そこに伴った感情は、自分じゃなくて良かった、という安心感だけだった。

知らない人に、崖から突き落とされた。

宙を舞う私の身体は、まず岩に当たって左腕が千切れた。

太ももが木に突き刺さって足がなくなった。

無抵抗の身体は頭から地面に着地し、地面には私の脳漿がぶち撒けられた。

飛び出した目玉がコロコロ回転して、丁度私を突き落とした人の顔が見える位置で止まった。

その人は笑っていた。

宇宙からの来訪者

宇宙からやってきたのか、何らかの敵が学校に襲来。

私が授業を受ける校舎は南館だったのだけれど、北館の方はもう敵の攻撃によって全滅しているとの校内放送が入った。

私はその時、先生に頼まれた書類を取りに、南館から北館を繋ぐ渡り廊下の上にいた。


先ほどまでいた南館は、元は人であったドロドロとした皮膚や内臓のようなものが床を覆っていた。

私は吐き気を抑えながら渡り廊下までたどり着いたというわけである。


渡り廊下の終点、北館の入り口まで来た時、敵の攻撃による爆発が北館を覆い尽くした。

私の爪先まで爆風が飛んで来たけれど、私は無事だった。

火に炙られてもがき苦しむ生徒たちが、扉からどっと溢れて来た。

あと1、2秒遅かったら、私も死んでいたな……と思った。


変わり果てたクラスメイトも扉から出てきた。

そこには私の親友もいた。

私は現実を受け入れられず、何も考えたくないとただ立ち尽くしていた。

ガラスの潜水艦

生まれた時から太陽は地球に接近していた。

私と親友以外の人類は死んだ。家族も、ほかの友達も。

私と親友は海を目指して歩いていた。


海に着いた2人は人生の最後、定員2名のガラスの箱のような潜水艦で海の中へ沈んでいく。


「海の底には知らん魚が結構いるね」

「深海に住む魚はまだ生きてるんだねぇ……


私達はきっと数日後には、苦しんで苦しんで苦しんで死ぬだろう。

でも死ぬのは別に怖くない。


「ところでそこの大きなタンクは何?」


親友は、私が持ってきた酸素のタンクを指差して言った。


「酸素」

「はい? 延命してどうすんの」

「だって、こんな上手くいくなんて思ってなかったからさぁ……

「早々に潜水艦が弾けて海の中に放り出されるかもしれないって?」

「うん」

「潜水艦が弾けたら酸素ボンベ咥える前に水圧で死ぬわ」


親友は呆れていた。

私だってそのくらいわかっていた。


太陽がいよいよ地球に迫ったのは、今から三年前。

その時はまだ、皆熱さに苦しみながらも生きていた。

まさか私達が地球最後の2人になるなんて、誰も予想していなかっただろう。


潜水艦は沈む。

潜水艦は沈んでいく。

マリアナ海溝よりも深く。


「来世はどんなだろう?」

「来世なんてないよ。デスノートで読んだ。死んだらもう永遠に闇の中だって」


最後に私らしくない弱音を吐いた。

死ぬことが急に怖くなったわけではなかったが、明日には私も親友もこの世にいないのだと思うと、不思議な感じだ。